T.O.Cコラム

改善の5ステップとは?


改善の5ステップとは?

TOCの3つの仮説に基づき、それを実際の企業改善に適用する方法論が「5ステップ」である。これはTOCによる改善活動を行う際に最も基本となる「行動ガイドライン」である。
一見すると、あたりまえのように感じられるが、実はもっとも難しいことをようきゅうされていることに気づくはずである。TOCによる改善活動の効果を上げるために意識して守らなければならない大原則である。

ステップ1.システムの制約を識別する
① 問題に関するTOC分析のため、言葉には表れていない情報まで集める
② ロジックを強化するTOC分析を行う
ステップ2.制約を最大限活用する
① 大きな投資を行うことなく即時、改善ができるのであれば即座に実施して、ステップ1に戻る。
② そうでないなら、制約を最大限活用する方法を作る
ステップ3.制約に他の全てを従属させる

ステップ4.制約の能力を高める方法を評価検討する
・その影響を予測したうえで選択した方法を実施する
ステップ5.ステップ1に戻る
・惰性にかまけて制約の識別をおこらないこと

ステップ1:システムの制約を識別する


ステップ1:システムの制約を識別する

TOCによる問題解決を進めるに当たって、財務諸表や提出された書類等の与えられた情報だけでなく、組織の持つ制約を識別するために独自の視点に基づいて現状を調査する。

◇ 制約を識別するための質問
分析を行うために必要な質問の大まかな流れは以下の通りである。
質問の結果に基づいて「現状問題構造ツリー」を作成する

質問① 会社または組織は明確な、そして合意されたゴール(目的)をもっているか?
・これはTOC分析を行う前提条件であり、TOCの仮定でもある
・この質問に回答できない場合、そのこと自体が「制約」である
一般の企業における達成すべきゴールとは、「収益を上げること、」である。また、公共施設である地方総合病院では、「地域の人たちが安心して治療を受けることができる」、等である。

質問② 会社が高いゴールを達成することをはばんでいるものはなにか?
・制約は会社の中にあるのか?時期的な変動があるか?
・需要は常に制約である

質問③ 会社は物理的にもっと多くの顧客を満足させ、販売を増やせるか?
・もし、イエスなら方針制約を探す
・出来ないのあれば、物理的な(生産能力等)制約を探す

(1) 物理的制約の存在
内部に制約がある場合、一定以上の受注は納期遅れを招くことになり、顧客の要求に応じることができないという状態になる。このような場合には、製造工程の一部に大量の仕掛品滞留や、予定外の製造リードタイムの延長など、予定していた生産計画が円滑に流れず、製造工程の一部に物理的な制約(ネック工程)が発生していると考えられる。
例えば、工作機械の加工時間による単位時間当たりの数量制限、または一度にできる熱処理の個数と時間、といったものである。その結果、熱処理工程の前に仕掛品が山と積まれることになる。この一連の加工工程を「制約工程」と呼んでいる。この工程を通過してしまえば、あとの出荷までの工程は能力に余力があるため円滑に進んでゆく。

(2)方針制約の存在
生産能力に余力があり、もっと多くの顧客要求を満たすことができる場合には内部の方針を探すことになる。ここでいう方針とは「会社の中で使われている各種の基準」のことで、さまざまな活動のガイドラインとなっている。表だって表現されていない現場指示や作業方針、従業員の評価基準、企業文化、さらに暗黙の了解といったものまでが含まれている。結果的にその方針の存在が企業ゴールである業績向上を阻害している場合、「方針制約」であるという。

営業活動では、「受注は決して断ってはいけない」「指定された原価率以上の話は受注しない」、製造面では、「機械稼働率を○○%以上に維持する」、「手待ちがあってはならない」、といった言葉で表されている。それ自体が悪いとかおかしい、といことではなく全体のパフォーマンスを阻害している場合に、「組織にとっての制約」となる。
方針制約への着目はTOC問題解決に特有の考え方であり、もっとも重視すべきステップである。ゴール(業績)達成を阻んでいるものはなにか、という視点から、工場の運営方針のみならず、営業方針や組織全体の経営方針にまで範囲を広げて観察する。

ステップ2 制約を最大限活用する


ステップ2 制約を最大限活用する

制約となっている工程(プロセス)の能力が組織全体のスループットを制限しているという視点をもとに、制約工程のもっているポテンシャルを最大限に生かすことに注力する。ただし、ステップ2では、大きな追加投資や資金を要する活動ではなく、当面の対応策として実施できるものに限定する。この対策実施で制約が解消されるのであれば、ステップ1に戻る。

具体的には、制約となっている工程作業を停止することがないよう、以下のような対策を即、実施する。
「休日出勤、残業等で実際の稼働時間を延長する」、「資材と生産計画の担当者と毎日話し合って制約工程に投入する資材の欠品を起こさせない」、「点検を実施して機械故障を起こさない」、「作業者の休暇を制限する」といった内容である。

ただし、ここで他の部署からの応援を頼む、とりあえず人を増強する、という決断については慎重でなければならない。制約工程の位置づけや本来の能力が曖昧になるだけでなく、仕掛品全体の動きや数量が変化するため初期のTOC導入効果が得られにくくなる。

ステップ3:制約に他の全てを従属させる


ステップ3:制約に他の全てを従属させる

他の工程を制約工程に従属させる。この概念は言葉としては容易に理解できるものの、最も実行が難しく、関係者の納得無しには機能しない。一般的な言い方として、「ネックになっている工程をみんなで支えよう」というスローガンがある。しかしながら、ここで求められているのは仲間で「支える」ことではなく、「従属」であり、もっとも遅い工程のペースに自工程のペースを合わせなければならない(同期する)ということである。

工場内部の制約工程における加工中の製品(ワーク)の動きや処理速度に合わせて、製造に直結する資材投入や、営業担当者の受注活動の判断を含め会社内の全ての活動、企業トップの動きも合わせてゆくことを意味している。
当然、表だった反対だけでなく、裏からも反対や不服従が予想される。

ステップ4:制約の能力を高める方法を評価検討する

このステップは制約となっている作業や工程を改善して製造容量を増やす等、組織全体にとって制約にならないようにすることを示している。この内容は通常の作業改善や工程改善に該当するものであり、一般的な事項のため説明を省略する。

ステップ5:ステップ1に戻る

惰性に陥らないよう注意して、ステップ1に戻る。

思考プロセス参考書籍


◇ ケースで学ぶTOC思考プロセス:エリ・シュラーゲンハイム著 ダイヤモンド社
→ 様々な業種におけるTOCによる問題解決の進め方を紹介したものでコンサルティングの進め方、TOC理論の業種別の適用方法など、技法の説明ではありませんが、考え方を学ぶには一番頼りになる書籍です。思考プロセスの各種ツールの使い方にも工夫が凝らされています。

◇ ザ・ゴール:エリヤフ・ゴールドラット著 ダイヤモンド社
→  そもそものスタートとなった生産管理小説です。図書館では製造業やビジネスではなく、北米の小説に分類されています。主人公が追い込まれた状況の中で、北米の労働環境や労使関係、さらにTOCが新たなルーツとして機能し始める様子がリアルに伝わってきます。何はともあれ、最初に読むのはこの本です。

◇ ザ・ゴール2 思考プロセス:エリヤフ・ゴールドラット著 ダイヤモンド社
→ 1冊目でさんざ主人公を悩ませた女(妻)が一転、なんと結婚コンサルタントとなって、旦那のジョナ・アドバイザーとして裏から支えるようになっています。TOCの最も中核となる考え方、思考プロセスを中心に、特に現状問題ツリー、対立解消図の例が豊富です。

◇ チェンジ・ザ・ルール なぜ、だせるはずの利益がでないのか:エリヤフ・ゴールドラット著 ダイヤモンド社
→ 一転して製造業からソフトウエア業に代わり、クライアント企業の生産管理システムに取り組みます。ソフト開発とフォローアップの仕組み作り、競争優位を確立するまでを詳細にたどります。

◇ 制約が市場にあるとき エリ・シュラーゲンハイム ラッセル社
→ TOCの全貌を、工場へのTOC理論の導入をテーマに、具体的なスキル中心に解説しています。中心となっているコンセプト S-DBRの考え方とステップが紹介されています。

生産工場シミュレーションゲームソフトがCDで付属しています。またDBRダイスゲームという、7~9人で集まってゲーム感覚でDBR導入効果を実感できるゲームのやり方が詳しく紹介されています。

◇ 制約理論(TOC)のインプリメンテーション マーク・J・ウオッペル著 ラッセル社
→  もともと製造工場で生産管理の担当者であったウオッペル氏が、TOCの導入成功を機に、ゴールドラット氏に弟子入りし、そのままコンサルタントとなって導入の実務に携わりました。それらの経験をかなりリアルに、細かいところまでストレートに説明した書籍です。実務面での参考書として細部まで詳しく書かれています。
本人も非常に明るくフランクな人で、できるだけのことを伝えたい、という気持ちが伝わります。
ピナクルストラテジー社の社長で、以下のホームページに記事を乗せています。
http://www.pinnacle-strategies.com/index.htm

◇TOC革命 稲垣公夫 の本能率協会マネジメントセンター
→ 日本で一番最初にTOCを紹介した本でしょう。打開策が無くて困り切っている工場経営者に相談にのる、という形を取りながら、TOCの実務面での考え方を適用してゆくという内容です。特に生産管理面の具体的な適用方法が中心にわかりやすく紹介されています。
他には、TOCクリティカルチェーン革命 もあります。

◇ カイゼン進化論 JIT TOC SCM 竹之内隆 日本工業新聞社
JITとTOCとの関係を探る本です。

◇ 最強の経営手法TOC 山中克敏 日経BP
耐熱塗料のオキツモ株式会社がTOCの手法と考え方をもちいて会社をきわめて日本的にカイゼンしていった過程が紹介されています。さまざまな改革に際して引き起こされる課題やややこしい内部調整など、かなりリアルなTOCレポートです。

◇ゴールはどこに消えた TOCが2時間でわかる 小林英三 ラッセル車
◇制約理論(TOC)についてのノート 同上

◇バイアブルビジョン ジェリー・ケンドール 日本工業新聞社
あなたの会社の「今の売上金額」を、「4年後の利益金額」にしてしまいましょう、という内容です。